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盛岡地方裁判所 昭和43年(ワ)367号 判決 1970年6月23日

主文

被告らは連帯して原告和山一二に対し金六九、五二七円、原告和山みよえに対し金四八一、三七八円および右各金員に対する昭和四三年一二月八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告ら、その余を被告らの各負担とする。

この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

一  原告らの申立

(一)  被告らは各自、原告和山一二に対し金五六四、九六二円、原告和山みよえに対し金二、三二八、四八四円および右各金員に対する昭和四三年一二月八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二  被告らの申立

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

(請求の原因)

一  原告和山一二は、昭和四二年七月四日午前五時四〇分ころ、盛岡市前九年町一丁目九番四〇号附近館坂橋交差点(以下本件交差点という)において、普通貨物自動車(四〇年型マツダライトバン岩四に七六〇六)(以下原告車という)に乗車原告和山みよえを同乗させて、館坂橋方面より天昌寺方面に向け進行中、被告竹内が被告会社所有の大型貨物自動車(札幌い二二三三)(以下被告車という)を運転し時速六〇キロメートル以上で夕顔瀬橋方面より安倍館方面に進行してきた際、被告車を原告車の側面に衝突せしめられ、よつて原告和山一二は助骨骨折兼右肘部挫創の原告和山みよえは頸部外傷、右橈骨骨折、右第三肋骨骨折頸椎損傷等の各傷害を与えられた(以下本件事故という。)

二  本件事故は被告竹内の過失に基くものである。すなわち、自動動車運転者たる者は制限速度を遵守し、かつ他の車両の動静に注意し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに被告竹内はこれを怠り漫然制限速度時速四〇キロメートルを超える時速六〇キロメートル以上の速度で進行し、かつ前記交差点に入る前一旦停止して発進した原告車に対する注意をしなかつた過失により本件事故を惹起せしめたものである。

三  被告会社は本件事故当時被告車を所有し自己のため運行の用に供している者であり、被告竹内は被告会社に雇傭され、被告会社の業務のため被告車の運転に従事していた者である。よつて、被告会社は被告車の運行供用者として自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第三条本文により、被告竹内は直接の加害者として民法第七〇九条によりそれぞれ原告らに対し連帯して本件事故によつて原告らが蒙つた後記四の損害を賠償すべき義務を負担した。

四  本件事故により原告らの蒙つた損害は次のとおりである。

(一)  原告和山一二の損害金七三二、三一六円

(内訳)

(1)  治療費金三五、七五六円

(イ)  高松外科医院支払分金九、〇四六円

(ロ)  武藤外科医院支払分金四、四八七円

(ハ)  須藤医院支払分二二、二二三円

(2)  休業による損害金一三二、三〇〇円

原告和山一二は大工職であり日給二、一〇〇円を得ていたが、本件事故により六三日間休業しなければならなかつた。

(3)  慰藉料金二〇〇、〇〇〇円

(4)  自動車破損による損害金三二四、二六〇円

(5)  弁護士費用金四〇、〇〇〇円

(二) 原告和山みよえの損害金二、九五三、四四六円

(内訳)

(1)  医療費金一、〇六三、五〇四円

(イ)  高松外科医院支払分(本件事故当日より昭和四二年七月一八日まで一五日間入院)金六八、二九八円

(ロ)  岩手医大病院支払分(第一回目同日より同年九月九日まで五四日間入院)金二〇二、二五七円

(ハ)  同病院支払分(同月一〇日より同年一〇月一一日まで通院)金二九、九七八円

(ニ)  同病院支払分(第二回目同月一二日より同年一一月八日まで一八日間再入院)金一五八、〇〇八円

(ホ)  須原病院支払分(同日より昭和四三年二月一四日まで九九日間入院)金四一五、八一五円

(ヘ)  頸椎シーネ分金二、四〇〇円

(ト)  岩手医大病院支払分(第三回目同年四月二日より同年六月一七日まで五七日間入院)金一五一、一七九円

(チ)  同病院支払分(同月二四日より同年一〇月二五日までの通院分)金三三、八四四円

(リ)  右期間高圧酸素タンク治療費金一、七二五円

(2)  付添費

(イ)  付添料金六八、八〇〇円

(ロ)  付添人食費

(a) 高松外科医院分金三、五〇〇円

(b) 岩手医大病院(第一回目)五三日間の分金二二、二六〇円

本件事故後直ちに原告和山一二の妹訴外和山チエが勤務を辞めて昭和四二年七月七日より原告和山みよえの付添いをなしたものであるが、高松外科医院で一二日間、岩手医大で五三日間、退院後自宅で昭和四二年九月三〇日まで二一日間付添看護した。

そして、付添料は一日当り金八〇〇円、食費は高松外科医院では一食金一〇〇円、岩手医大病院では一日金四二〇円の割合である。

(3)  交通費金七、二二〇円

(4)  文書料(診断書等)金三、二〇〇円

(5)  慰藉料金一、五〇〇、〇〇〇円

原告和山みよえは現在でも通院中であり、神経障害を遺し、週に三度位は左半身が麻痺状態に陥り転倒することもあるような状態にある。

(6)  弁護士費用金一六〇、〇〇〇円

五 よつて原告和山一二は被告らに対し、同原告が本件事故によつて蒙つた損害である前記四、(一)の金七三二、三一六円から同原告が給付を受けた保険金一六七、三五四円を控除した金五六四、九六二円およびこれに対する訴状送達の日の後である昭和四三年一二月八日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告和山みよえは被告らに対し本件事故によつて蒙つた損害である前記四、(二)の金二、九五三、四四六円から同原告が支給を受けられる予定の保険金五〇〇、〇〇〇円を控除した金二、三二八、四八四円およびこれに対する右同様の遅延損害金をいずれも連帯して支払うべきことを求めて、本訴に及んだ。

(請求の原因に対する被告らの答弁)

一  (請求の原因)のうち原告和山一二が原告ら主張の日時場所において原告車に原告和山みよえを同乗させて同車を運転していたこと、被告竹内が原告ら主張の運転経路をとつたこと、原、被車が衝突したことは認めるが、原告らの傷害については知らないし、その余の事実は否認する。

二  同二のうち制限速度が時速四〇キロメートルであつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  同三のうち被告会社が本件事故当時被告車を所有し自己のため運行の用に供していたものであること、被告竹内が被告会社に雇傭され被告会社の業務のため被告車の運転に従事していたものであることは認めるが、その余の事実は否認する。

四  同四は知らない。

五  同五のうち原告和山みよえが保険金五〇〇、〇〇〇円の支給を受ける予定であることは認める。

(被告会社の抗弁)

本件事故につき、被告会社および運転者たる被告竹内は被告車の運行に関し注意を怠らなかつたし、被害者たる原告和山一二に過失があつたものであり、そしてまた被告車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたものであるから、被告会社には本件事故による損害を賠償すべき責任はない。すなわち、

一  被告竹内は被告会社の運転者として被告車の運行に関し十分な注意義務を尽していた。

被告竹内は本件事故当日国道四号線を東京から札幌に向け野菜類約八トンを積載して被告車を訴外荒木守と交替に運転したものであるが、当日午前三時三〇分ころ右荒木と交替して運転を始めたのは岩手県平泉町で、それまで約四時間の睡眠をとつていたため、本件事故当時疲れも眠気もなかつた。

そして、被告竹内は本件事故当日前記のごとく国道四号線を北進し午前五時四〇分ころ本件交差点に差しかかつたが、そのころ右交差点の進行方向の信号は黄色の点滅であつた。そこで、被告竹内は本件交差点の手前でそれまでの時速四〇キロメートルの速度をそれから約五キロメートル減速し同交差点に進入した。道路交通法施行令第二条第一項によると、黄色の点滅信号の場合は一時停止をしなくとも他の交通に注意して進行すればよいのであるから、被告竹内は本件交差点に差しかかつた際、被告車を減速徐行して運転したわけである。しかも、被告竹内は本件交差点に入る前に同交差点に入ろうとする原告車を発見してクラクシヨンを鳴らし、直ちにエアーブレーキをかけたのである。

右のとおりであるから、被告竹内は運転者として要求される注意義務を十分尽していたものというべきである。

ところで、原告和山一二は本件事故の刑事被告人として、被告竹内がスピードをオーバーしていたこと、同被告がブレーキを満足にかけなかつたことが本件事故の原因である旨供述するところである。しかし、右供述は事実に反する。被告竹内は本件交差点に差しかかるまでは確かにハイトツプで運転してきたが、右交差点附近ではトツプにギヤーを入れ替え、しかも時速約五キロメートル減速しているのであるから、いくら多く見ても被告車の速度は時速四五キロメートル程度のものであつたというべきである。この点、訴外薄井一夫(鑑定人)は右刑事公判廷において被告車の速度は時速五六・五キロメートル位であつた旨供述しているが、これはあくまでも推定でしかなく、しかもブレーキの踏み方で変ると述べているのであるからこのことから直ちに被告竹内運転の被告車の速度が時速四五キロメートルを超えていたと即断することはできない。

確かに、本件交差点附近国道四号線の制限速度は時速四〇キロメートルとなつているが、その速度が著しく超過していない限り(被告竹内が右制限速度を超過していたとの確実な証拠があるわけではない)早朝、深夜などの交通量の殆んどない時間にまで右速度制限を形式的に適用すべきではない。けだし、速度制限の趣旨を考えると、事故発生の現実的な危険がないのに一律に速度制限を厳格化することは高速度交通機関としての自動車運行の社会的効用を著しく減弱せしめることになるからである。

ところで、原告らが進行してきた道路の信号が赤色灯火の点滅であつたことは明かである。したがつて、原告和山一二は自動車運転者として交差点の直前で一時停止しなければならない法律上の義務がある(道路交通法施行令第二条第一項)。したがつて、黄色の点滅信号の国道四号線を進行してきた被告竹内としては、他の道路から本件交差点に進入する自動車は一時停止して、自己の自動車に注意を払つてくれるものと信頼して運転して差支えないものというべく、原告和山一二運転の自動車が進入するのに気付かなかつたのも右信頼があつたからにほかならず、運転者として要求される注意義務を尽しているものというべきである。

自動車運転者が、信号を無視して進行してくる自動車等があることまでも予測しながら運転しなければならないというのであれば、高速度交通機関である自動車運行の社会的効用は著しく損われ運転者にも過酷を強いるものであるというべきである(信頼の原則)。

ところで、本件交差点のように赤色と黄色の点滅信号が作動している交差点は道路交通法第三六条第二、第三項にいう「交通整理の行われていない交差点」に当るとされているのであるから、国道四号線を進行する被告竹内運転の自動車に優先通行権があつたというべきである。

以上のとおり、被告竹内は被告車の運転者としてその運行に関し注意を怠らなかつたというべきである(被告会社も運転手を十分に監督して自動車の運行に関し注意を怠らなかつた)。したがつて、被告らにはいずれにも過失がなかつたものである(仮に被告竹内に若干の過失があつたとしても、それは極めて軽微なものに過ぎない)。

二  被害者たる原告和山一二には本件事故の発生について過失があつた。すなわち、原告和山一二は妻和山みよえを助手席に同乗せしめて本件事故当日午前五時四〇分ころ原告車を運転して本件交差点に差しかかつた。この際、原告和山一二は国道四号線の信号が黄色の灯火の点滅であつたことは認め、かつ自己が進行する道路の信号が赤色の灯火の点滅であることは知りながら、同交差点に差しかかつたときは赤色の点滅を認識しなかつた。そして、原告和山一二は横断歩道の手前の停止線附近で一旦停止したが、赤色の点滅にしたがい停止したものではなく、また右側は注意したものの、左側は家の陰で進行してくる自動車は見えなかつたというのである。このことは、原告和山一二が本件交差点直前で原告車を停止させて左右を確認しなかつたことを示している。

道路交通法施行令第二条第一項は赤色の灯火の点滅信号の場合交差点の直前で一時停止しなければならない旨定めているのであるから、原告和山一二はこの一時停止の義務を怠つたものというべきである。

しかも、原告和山一二は左方から自動車が進行してこないだろうと思つて本件交差点に進入し、左方から進入する自動車が見える位置に原告車が進行してもなお左方向を確認せず、クラクシヨンの音を聞いて始めて衝突したことが判つたというのであるから、原告和山一二には自動車運転者として要求される注意義務を怠つた重大な過失があると言わなければならない。

したがつて、本件事故は原告和山一二の一方的過失によつて惹起されたものというべきである。

もつとも、原告和山一二は刑事被告人として公判廷において右と異る事実を供述しているけれども(甲第三五号証参照)、右供述がすべて正しいとすることには疑問がある。原告和山一二が正式裁判の申立てをなし事実を争つたのは、正式裁判を申立てることによつて民事裁判を有利に進行させようとしたものと見え、その点は同人の公判廷における供述から窺えるところである。

三  被告車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつた。

右事実は証拠上明白である(甲第二四号証の一参照)。

(被告会社の抗弁に対する原告らの答弁)

抗弁事実を否認する。

(証拠関係)〔略〕

理由

第一本件事故

原告和山一二が、昭和四二年七月四日午前五時四〇分ころ、盛岡市前九年町一丁目九番四〇号先通称館坂交差点(本件交差点)において、原告車に乗車し原告和山みよえを同乗させて、館坂橋方面より天昌寺方面に向け進行中、被告竹内が被告車を運転し夕顔瀬橋方面より安倍館方面に向け進行してきた際、原、被告車が衝突したことは当事者間に争いがない。

第二被告竹内の責任

成立に争いがない甲第二四号証の一ないし五、第二五、第二九、第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二ないし第三五号証、原告和山一二、被告竹内の各本人尋問の結果を総合すると(ただし、後記信用しない部分を除く)、次のような事実が認められる。

一  本件交差点は五差路の交差点で自動信号機が設置され、本件事故当時右信号機は国道四号線(被告車進行道路)が黄色、その他の道路(原告車進行道路もその一つ)が赤色の点滅であつた。

二  館坂橋より天昌寺方面に向う道路(原告車進行道路)は、前方の見通しは良好であるが、道路両側に建物が建並んでいるため交差点間近かまで本件交差点左右の見通しは殆んどきかないし、夕顔瀬橋方面より厨川方面に向う国道四号線(被告車進行道路)も前方の見通しは良いが本件交差点左右への見通しは道路両側に建物が密集しているため交差点直前まで殆んどきかない。

三  本件交差点はアスフアルト平坦鋪装道路であるが、本件事故時濡れていた。

本件事故当時の天候は曇であつたが、既に夜は明けていて天候上見通しがきかないというようなことはなかつた。

四  本件交差点附近国道四号線の制限速度は時速四〇キロメートルであつた(この点は当事者間に争いがない)

なお、本件事故当時、本件交差点附近の交通量は少なかつた。

五  被告竹内は右制限速度を超える速度で本件交差点に進入した(被告竹内は時速四〇キロメートルを超えていなかつたと供述するけれども、成立に争いがない甲第三四号証―被告人和山一二の刑事事件における証人薄衣一夫の証言―によると、鑑定の結果は被告竹内が急制動をかける直前の被告車の速度は時速五六・五キロメートルというのであるところ、右証人のその他の証言内容に照し右鑑定の結果には信憑性が高く、被告竹内の右供述は採用し難い。)。

そのため、被告竹内は交差点に入る直前交差点に入ろうとする原告車を発見し急制動をかけたが、スリツプし急制動をかけた地点から約一六・四五メートルの地点で原告車の左側面に衝突、そのまま原告車を左斜前方に約一六・二メートル押していつて停車した。

六  原告和山一二は本件交差点に入る前、信号機の赤の点滅を認めることなく進行(ただし、本件交差点が赤の点滅であることは知つていた)、交差点附近の横断歩道の手前の停止線で一旦停止、まず右方の安全を確認、左方は角の建物のため左方から進行してくる自動車を認めえなかつたが、前方から対向してきた自動車が右折(原告車から見ると左折)して行つたので、左方から進行してくる車両はないものと判断しそのまま本件交差点に進入、左方が見通せる位置に来た時も特に左方を確認することなく進行し、被告車と衝突した(原告和山一二は本件事故に対する警察の取調べに際しては右のごとく供述するもの、刑事事件の公判廷および本件においては横断歩道の先まで進入して一旦停止し左方を確認したが、被告車を認めず進行したところ、衝突した旨述べるところである。しかしながら、成立に争いがない甲第三一号証の一、二によると、原告和山一二が横断歩道の先で停止したという地点から左方を確認すると六六メートル余の地点まで見通せることが認められ、もし同原告が本件において述べるとおりの確認をなしたのであれば被告車を発見できなかつたということが理解し難いし、また十分確認しても被告車を発見できない程に被告車の速度が速かつたとの証拠もない。

右認定に反する甲第三五号証の記載内容、原告和山一二、被告竹内の各供述部分は前掲証拠に照したやすく信用することができないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によると、本件事故は原告和山一二、被告竹内の各過失が競合して発生したものというべきである。けだし、原告和山一二は本件交差点に進入するに際しては左右の安全を十分確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠つたものというべく、また被告竹内は本件事故当時交通量が少なかつたとはいえ、本件交差点は左右の見通しの悪い交差点であり、かつ信号機も黄色の点滅であつたのであるから、他の交通に注意して進行すべき注意義務があつたのに(本件交差点では制限速度をかなり下廻る速度で進行しなければ他の交通に注意しえない)、これを怠つたものというべきだからである。

そうすると、被告竹内は直接の加害者として民法第七〇九条により本件事故によつて原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

第三被告会社の責任

一  被告会社が本件事故時被告車を自己のため運行の用に供していたものであることは当事者間に争いがない。

二  そこで、(被告会社の抗弁)について判断するに、前記第二の認定事実によると、かえつて運転者たる被告竹内には被告車の運行に関し注意を怠つたところがあつたものというべく、そうするとその余の争点について判断するまでもなく、被告会社の右主張は理由なきことに帰する。

三  してみると、被告会社は被告車の運行供用者として自賠法第三条本文により原告らが本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

第四本件事故による損害

成立に争いがない甲第一号証、第二号証の一ないし一〇、第三第四号証、第五号証の一ないし九、第六号証の一ないし三五、第七号証の一ないし五、第八号証、第九号証の一、二、第一〇、第一一号証、第一二号証の一ないし四、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし六、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし三〇、第一七号証の一ないし八、第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇号証の一、二、第二一ないし第二三号証、第二六ないし第三〇号証、原告和山一二、同和山みよえの各本人尋問の結果によると、次に附加訂正するほか、(請求の原因)四の事実を認めることができ、他に右認定を左右するにたる証拠はない。

一  原告和山の慰藉料額は金六〇、〇〇〇円が相当と認める(入院一ケ月につき金一〇〇、〇〇〇円を一応の基準とし、原告和山一二の入院日数は一〇数日と認められるところ、これにその他諸般の事情を考慮した)。

二  原告和山みよえの慰藉料額は金一、〇〇〇、〇〇〇円を相当と認める(算定基準は右一と同様であるところ、同原告は二四〇余日入院したこと、現在もなお完治していないこと、その他諸般の事情を考慮した)。

そうすると、原告和山一二の損害額は金五九二、三一六円、原告和山みよえの損害額は金二四五三、四四六円となる。

第四過失相殺

被告らが原告和山一二に過失のあつたことを主張していることは明らかである。

そこで、原告和山一二の過失について判断するに、本件事故は前記第二の認定の事実のごとき状況において発生したものであつて、右事実からみると、本件事故の発生については原告和山一二の過失の程度が大であつたというべきである。けだし、被告竹内には注意進行を怠つた過失はあるけれども、原告和山一二には左方の確認を十分なすべきなのにこれをなすことなく漫然交差点に進入し衝突して始めて被告車に気付いたというものだからである(信号機の点滅の関係からみても原告和山一二の方に被告竹内に比しより高い注意義務が課せられていたというべきである)。

そこで、過失の割合は原告和山一二が六、被告竹内が四とみるを相当とする。

そうすると、過失相殺の結果、原告らの請求できる損害賠償額は前記第三認定の損害額の四割、すなわち原告和山一二については金二三六、九二六円、原告和山みよえについては金九八一、三七八円となる。

第五保険金による填補

原告和山一二は保険金一六七、三五四円、原告和山みよえは保険金五〇〇、〇〇〇円をその損害の填補に当てた旨それぞれ自認するところである。

そうすると、原告らの被告らに対し請求できる損害賠償額は、結局原告和山一二が金六九、五七二円、原告和山みよえが金四八一、三七八円となる。

第六結論

以上のとおりであるから、原告らの被告らに対する本訴請求は、右第五の金員およびこれに対する記録上訴状送達の日の後であることが明かである昭和四三年一二月八日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるので、正当としてこれを認容することとし、その余は失当として棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 清水利亮)

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